自己株式の取得

以下では,自己株式の取得について見ていくことにする.


自己株式は会社が株主に発行した株式を会社自身が買い取ることで獲得した株式のことである.自己株式は悪用される可能性が高いことから,かつては自己株式の取得は原則禁止された.その理由は

<1>自己株式の取得は出資の払い戻しとなり,債権者を害すること

<2>一部の株主から自己株式を取得すると株主平等の原則に反すること

<3>自社の株価を操作する操作操縦や,未公開情報を用いたインサイダー取引に使われるリスクがあること

<4>取締役による会社支配権の維持に用いられる可能性があること

であった.

しかし,<1>については債権者を害さないような自己株式の取得方法もあり

<2>については,同じく株主平等の原則に反しない取得の方法もあり

<3>については相場操縦やインサイダー取引に該当するだけ禁止すれば足りるし,現に両方とも金融商品取引法において禁止されているし

<4>については,取締役が会社の資金で自己株式を取得することが考えられるものの,自己株式には議決権がなく(308-2),自己株式の取得を禁止してしまうと,会社の支配権を争う買収側の議決権比率を高めることになるかねないので,自己株式の取得を禁止するべきではないとする.

したがって,自己株式の取得を禁止していた理由は自己株式取得自体に問題があるからではなく,自己株式取得で起こる弊害を防ぐためのものであったため,現在では取得事由があれば自己株式の取得を認めている.

会社法では自己株式の取得事由について列挙されている(155)いくつか紹介すると,

<1>取得条項付株式の取得事由の発生

<2>譲渡制限株式の承認拒否のとき,買取請求により当該株式を取得する時(138-1)『当然に株主決議が必要となる140-2』

<3>株主総会決議による取得(156-1)

<4>取得請求権付株式の取得請求(166-1)

<5>全部取得条項付種類株式を取得する総会決議(171-1)

<6>譲渡制限株式の相続人に対する売り渡し請求(176-1)

このように,会社は条件を付して特定の株式について自らが買取ることを株主に約束したり,また,譲渡制限株式を取得するケースがある.会社の機動的な資金調達と株式取引の流動性上昇のためには自己株式取得を禁止するより,理由があれば認める方向にする方がメリットが大きい.

しかし,自己株式取得には他の株式と違い,一定の規制が必要となる.

ただ,いずれの場合であっても,株式の取得については株主総会での決議が必要となる点に留意したい.

以下では,自己株式を取得する際の手続きについて,どの株主から取得するのかの観点からみていくことにする.とりわけ,多数の株主から取得する場合と,決められた特定の株主から取得する場合に分て見ていく.

多数の株主から自己株式を取得する場合

まず,多数の株主から自己株式を取得する場合である.この場合,株主総会の決議が必要である(156-1)決議事項には取得する株式の数と対価の期限等を含む必要がある.そして,個別の買取条件を決定する(157)このとき,株式を会社に売ることを希望する株主らは会社に売る株式に関する事項を通知する.もし会社が買取を希望する自己株式より株主からの売却申請が多い場合には,株主が申請した株主の数から按分して買い付ける.こうした手続きは幾分煩雑であることから,上場会社では特例が認められている.

その特例とは,取締役会設置会社が定款に自己株式取得に関する定めをおいているときには,取締役会の決議に基づいて市場取引又は公開買い付けにより自己株式の取得を可能とさせることである(165-2-3)

特定の株主から自己株式を取得する場合

次に,特定の株主から自己株式を取得する場合(160)について見ておく.

この場合は株主総会の特別決議が求められ,この決議において取得の相手方は議決権が排除されることになる(160-4)例えば,会社がA種類株式を取得するような場合,当該A種類株式を取得する決議を行う際にA種類株主は議決権を行使できない.

さらに,他の株主は自己の株式を含め会社が買い取ってくれることとして相手方に加えることの請求をすることができる(160-2-3)ただし,市場株式のある株式については売主追加請求権は存在しない(161)また,非公開会社が株式の相続人等から取得するときは排除される(162)そして,定款でこの場合の売主追加請求を原則できないようにすることも可能である(164)


次に,財源規制についてみておく.財源規制とは,会社の資本を守るための制度で,会社がみだりに会社財産を分配したり,自己株式の取得を悪用することを防ぐためのものである.

具体的には以下のようなことが定められている(461-1)

 <以下のような場合にあたっては,分配可能額を超えてはならない>

譲渡制限株式の承認拒否による買取請求(138-1ーハ)

子会社からの取得/市場買い付けと公開買い付け(163,165-1)

総会の授権に基づく個別の取得(157-1)

全部取得条項付種類株式の取得(173-1)

譲渡制限株式の相続人等に対する売渡請求(176-1)

また,461-1以外でも規定されている.

464

166-1

170-5

ただ,財源規制を受けないものもある.(例外)

<1>他会社からの事業全部の譲受<2>合併の消滅会社からの承継/吸収分割<3>株主の株式買取請求権に応じるとき等(詳細は法務省令による)

さらに,分配可能額の算定と分配可能額を超えて支払った場合の責任,期末の欠損填補責任は剰余金の配当と同様の責任を負うものとしている.


上記では,自己株式の取得が禁止されている理由について述べており,現在では自己株式の取得が緩和されている経緯について触れているが,自己株式は通常の株式新株発行より強い規制をすることが求められる.そのため,違法な自己株式取得について争われており,又,違法に自己株式を取得したときにその効力をどのように扱っていくべきかについて議論がある.

まず,自己株式を取得する手続きを違反している場合がある.

このような手続き違反の場合,自己株式の取得は無効であるものの,会社は善意の第3者に無効を主張することはできない.具体的には以下のようなケースが想定される.

<1>株主総会の決議がないのに,特定のものから自己株式を取得したとき

<2>定款の定めがないのに,取締役会決議により市場取引で自己株式を取得したとき

また,売主に取引の安全を保護する必要があるかも問題となる.

一方で,財源規制を違反したときにその効力を無効にすべきか有効にすべきかが問題となる.有効説と無効説が対立しているものの,株式を売り渡した株主は対価を会社に戻す義務を負う(462-1)


自己株式の保有

会社は期限を定めることなく自己株式を保有することができる.しかし,この場合,当該自己株式に係る議決権はない(301)また,その他の共益権もなく,利益配当請求権(453),株主割当新株発行(202-2),残余財産の分配(504-3)も禁止となる.

自己株式の保有についてどのように扱うべきかについては,資産説は否定される.現行では,自己株式を保有しても,経済的には何も保有してないことになるので,貸借対照表上には資本の控除項目として表示される.さらに,自己株式は取締役会の決議により,償却することができる(178)この場合,発行済株式総数は減少する


自己株式の処分等

 上記では,自己株式の保有は経済的実質がないことに触れた.では,自己株式の処分により資金が調達されるとすれば,会社は無から有を創造することになるので,自己株式の処分は資金調達と同じように見ることができるのではないか.

このことを反映して,自己株式処分の際には新株発行と同じ規制が適用される.そのためか,自己株式は代用自己株式として使用され,株式交換,会社分割,合併の際に,発行する新株に代えて渡すことができる.新株予約権者の予約券行使に対しても,新株を発行する代わりに自己株式を当てて交付することが認められている.

 ただ,子会社による親株式の取得は禁止されている(135-1)

子会社による親株式取得禁止は昭和56年の改正で定められた.この規定は依然として維持されている.仮に子会社が適法に親会社の株式を取得したとしても,相当の時期に処分しなければならない(135-3)

株式分割

では,株式を分割することについて見ていく.

株式の分割は一つの株式を2つの株式にするようにして,投資単位を引き下げることが目的である.例えば,一株あたりの株価があまりにも高いような場合,小額の資金しか保持していない投資家は会社に出資することが困難であるために,出資をよりしやすくするために作られた.株式を分割するためには取締役会の決議(183-2)が必要である.

一方で,株式は1株未満で取引されることがあり(単元未満株),このような場合,合計数に相当する株式を処分し,代金を端数の株主に分配することになる(235)

また,分割に関わる関連論点としては,株主の無償割当(185)異なる種類の株式を取得させることもできる.取締役会決議(186-3)


株式の併合

株式の併合とは2株を1株に併合させることをいい,株主管理コストの削減を目的として行われる.株主総会の特別決議(180-1-2)が求められる.

特別の株主に全株を取得させる買収の手段としても使われ,例えば100万株発行の会社で70万株を1株に併合するような場合が想定される.


単元株未満株式

株式は均等に細分化された会社の所有権者たる権利ということができる.ただ,株式は一般に一人が占有するより大勢の人に分けて分配されている.そのため,一定の単位を作り所有権の程度を示す必要がある.仮に,株主たる権利がほんの少しの金額しか投資していない株主にも認められる場合,悪意をもった総会屋が会社の営業を妨害することもありえる.

また,株主を管理するためには株主に総株主通知を送ったり,閲覧請求に応じたり,株主の人数に合わせて株主総会を開いたりするための費用が必要となる(株主管理コスト).したがって,現在では多くの会社で株式の単元を定め,単元未満の株主については株主たる権利を制限している.

会社の議決権を行使できる単位を定めることで,株主管理コストを抑制する目的を持つ.種類株式は種類ごとに単元を定めることができる(188-3)

手続 定款変更として株主総会の特別決議(466)

単元株未満株主の権利

議決権がない(189-1)しかし,共益権は解釈によるものとする.

株主提案権,質問権のような議決権を前提とする権利はない

一方で,株主総会決議取消権を認めるかについては見解がわかれる.

代表訴訟定期券は定款で自益権を制限しているときは認められない(847-1)

自益権については,一定の権利を除いて定款で排除できる(189-2)

排除できない権利:剰余金配当請求権,残余財産分配請求権,買取請求権

投下資本の回収

会社に対する買取請求(192-1),会社に対する売渡請求(194)